新うきさと通信 

三重県の山里から

 標高330㍍の老人革命…自治会執行部が総退陣

            「みんなの店」が廃業

 松阪市の標高330㍍の山上で「老人革命」が起きた。80歳と70歳を目前にしたシニア夫妻が中年男女5人で牛耳る自治会の執行部を総退陣させた。価値観の違いから、老人が若者に追い出されるのなら解るが、ウソのようなホントの話のいきさつは―。

 柚原町自治会は5月19日、宇気郷市民センター講堂で臨時総会を開き、赤字が続く「みんなの店」の存続について討議した結果、過半数を大幅に上回る32人の賛成で廃業を可決した。

 これに伴い、会長、副会長、会計、書記の執行部4役が「(総会は自分への)不信任だ」(会長)として総退陣、郵便局の女性主務員も6月末で退職する意向を明らかにした。

 臨時総会は「みんなの店」と郵便局の決算報告書の開示を求めた老夫婦が集落の全住民(28世帯)の署名を集めて実現したものだが、その執念は物静かな佇まいからは想像できないほどの凄まじさで、まさに、「雨の日も、風の日も」だった。

 「店」ができたのは15年前。JAが撤退したあと、全自治会員が1万円ずつ出資(元村人が別に300万円寄付)、日用雑貨品の販売を始めたが、30%を超える急速な人口減で売り上げが低下、赤字が続いた。

 もっとも、その内実はヤブの中。令和3年度の累積赤字は120万円という「少額」だったが、自治会長の発表なので信用するしかなかった。

 不可解だったのは決算報告書を出資者に公開しないこと。役員会議で質しても「解らない」と応じなかった。高齢者には理解できない、という意味なのであろう。だが、ホントのワケは別に潜んでいた。「店」を私物化したかったのだ。

 夫が飼い犬を連れ込む、同じ棟の郵便局(自治会と日本郵便株式会社の契約で運営)の奥の部屋で、妻の主務員(自治会の雇用者)が夕食のおかずの煮炊きをしたり、飼っているヤギの餌を自治会の小屋に収めたり、日当3000円の店番の回数を自分の親しい住民(男性)に多く割り振ったり(そんな権限は郵便局員にはない)…その上、日によって極端に変わる応接態度…住民から総スカンを食っていた。
 総会で配られた決算報告書の赤字は、400万円から500万円を超えていた。そのくせ、売り上げは減っている。そのワケ質すと、会長は「出資者への粉飾だった」と、あっけらかんと答えた。閉店圧力が怖かったのだろう。

 総会では、もう1つの爆弾発言があった。会長が(出資者の)台帳が見つかった」と、真実を晒したのだ。追い込まれた上の覚悟だったろう。赤字でカネが戻ってこない、という噂が広がり、心配した一部の出資者が返金を求めたが、「証券がなければダメ」と一蹴、「台帳があるはず」との反問にも「(前任者から)引き継いでない」とハネつけていた。
 それがウソだった。「ある人が持っていた」と、数日前に老夫妻に明かしていたが、総会では「その人の名は言えない」と、公開を拒んだ。夫の議長は、その「ある人」電話で確認したが、「自分は知らない」と答えたことを明かした。台帳は、返金しなくても済むように、金庫に隠していたらしい。

              郵便局も店じまい

 郵便局も閉局された。前会長の妻が引継ぎを拒んだためだ。老夫妻は日本郵便東海支社をはじめ、近隣の簡易郵便局や知人ら、関係先を駆けずり回ったが、後釜は見つからなかった。主務員は自治会の雇用者であり、退職時には業務を引き継ぐ責任があるのに、それを断った。「教えてほしければ、頭を下げてこい」と言わんばかりの態度だったらしいことを、夫妻は間に立った住民から聞かされたという。

 「革命」は、一区切りついたが、余波はある。名実ともに村が再生するには、まだ時間がかかる。