新うきさと通信 

三重県の山里から

     市は「好意で配っていた」

        

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                   届けるのは行政の責務…くすぶる柚原町の広報誌不配問題

 自治会に加入していない住民には、広報誌を配らないことを宇気郷地区市民センター(渋谷和彦所長)が昨年2月に決めていたことが明るみに出たことで、「何十年も配られていたのに。いじめ、差別だ」と反発した柚原町の老女(85)と、事実を明かされた新うきさと通信発行人の大窪興亜は先ごろ、松阪市役所を訪ね、見解を質した。

 1時間の話し合いの中で、市側は「もともと自治会に入っていない人には配らないことにしている。柚原町の場合は(市の)好意によるもの」(岡田久秘書広報課広報広聴担当監)と、特殊なケースであることを説明するとともに、非自治会員にはスーパーや公共施設などで手に入るように体制を整えていることを強調した。

 しかし、老女は体調不安があることや、近所づきあいが少なく、他人に持ち帰りを頼みにくいことなどから、以前のような安心できる直配の復活を望んでいる。

 「不配」が表面化してからひと月足らず。直配は難しい情勢だが、問題の本質は次の2点に絞られよう。

 ①市民の税金で作られた広報誌は、市民のもの

 ②市民のものを市民に届けるのは、行政の責務

 この間に「好意」が入り込む余地はない。それは「お情け」であり、先の敗戦と引き換えに得た主権在民の国体の根本理念に反する。

 それでも、「好意」はともかく、何とか届けようとする強い責任感が感じられる実例がある。自治会のない垣鼻町では、市民センターの職員が毎月7、8軒に配っているし、30世帯の非自治会員を擁する松尾市民センターでは、その代表者に一括して届ければ、もれなく行き渡るシステムが出来上がっている。

 しかし、市の見解をそのまま敷衍(ふえん)すれば、こうした出先機関の努力は「しなくてもよい」ことになりかねず、今回の宇気郷地区市民センターの方針転換をも正当化する根拠を与えるのではないか、との見方が地元の一部で出ている。

 柚原町の場合、問題がこじれたのは、善後策を用意しないまま、「配布停止」で切って捨てたことにある。渋谷所長は、自治会の意向を仄めかしているが、それが事実なら行政の裁量権への介入であると同時に、受け容れる側の姿勢も批判されよう。

 今回の騒動は、高齢化が急激に進む中で、広報誌の配布に看過できない課題が潜んでいることを浮き彫りにした。これを機に、官民協同で対応策を模索すべきではないか。シルバー人材センターやポスティング業者の活用など、方途はある。ただ、問題解決のカギは市民への「責務」を負う行政側が握っていることだけは、はっきりさせておくべきであろう。