新うきさと通信 

三重県の山里から

 荒れ放題の旧墓地・ビールの返品

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               「どうせ、他人の…」

 

松阪市の軽井沢」とも呼ばれる標高330㍍の山里に広がるうきさと地区。その一角にある柚原町の旧墓地が荒れ放題になっている(写真上)。

 現場は国道166号の辻原町と津市美杉町(旧美杉村)を結ぶ県道29号の山裾にある。墓石は名を刻んだのが数柱、遺骨が埋まっているらしい場所に置かれた石が10個ほどあるだけで、ほとんどが無縁仏とみられる。

 町の墓地へ引っ越したり、村の寺へ移されたりして減ったらしいが、墓地は死者の霊が眠る聖域のはず。参拝するのは年に1人か2人。掃除もされず、放ったらかしで、村で生まれ、育った住民も「どうせ他人の墓」と、ソッポを向く。

                 温泉で談論風発

 いつもはのんびりしている津市美杉町の温泉の待合室で談論風発があった。言い出しべぇは70代半ばの品のいい男性。スーパーで無糖ビールを買ったが口に合わず、4ケースのうち3ケースを「新品」のまま返品、別のビールに買い替えて清算した(1ケース6缶入り)。店長は快く応じてくれたという。

 問題はここから。コトの顛末を聞いた数十年来の親友が怒り出した。返品が倫理的に許せなかったらしい。腑に落ちない男性は「他でも聞いてみる」。顔見知りの温泉客の反応は―。

 Aさん(男・50歳前後)「返品は好ましいことではないかもしれないが、店側が気持ち良く受け容れてくれたのなら、それでよいのでは」

 Bさん(女・60代半ば)「引き取ってもらえないと、余ったものは捨てるしか…もったいないですねぇ」

 Cさん(同)「田舎だと、店と懇意になっているので返品しやすく、私もたまにやりますよ。でも、町では人間関係が薄いので難しいかも。地域性の問題ではないですか」

                ×  ×  ×  ×

 その後、男性は大阪の中年の知人男性から「正当な行為」と評価されたという。返品しなかった場合の事後策は①他人にやる②捨てるーの2つ。前者は自分の口に合わないのなら、他人も飲まない可能性がある。後者は損失を生む。

 しかし、返品したことで2つの問題はクリアでき、禍根を残さない。つまり、経済合理性にかなっている、というわけだ。

 この種の問題は、モラルを基準に捉えがちだが、この男性は全く別の社会経済的な観点から分析、評価したことになる。「卓見」と、思わず快哉した向きもあるのだが…。